融資期間は長ければ安心は嘘です
不動産投資を始めたばかりの人ほど、「とにかく返済を軽くしたい」と考えて、無条件に長期ローンを選びがちです。営業マンも「長く借りれば毎月の支払いが減るので安心ですよ」と背中を押してくるでしょう。
しかしそれ、本当に安心と言えるのでしょうか?
金利は返済期間が伸びるほど膨らむ
「長く借りれば月々の返済が軽くなるし、安心ですよね?」
本気でそう思っているなら、すでに金融機関のお得意様になっています。
たしかに月々の返済額は減ります。でもそれは、安心と引き換えに高い授業料を払っているだけ。つまり金利。
同じ物件でも、融資期間が5年伸びるだけで、支払う利息は数百万単位で膨らみます。この出費は、毎月の返済額に埋もれて実感しづらい。
だから多くの投資家が気づかないまま、収支を食い潰されています。
物件の寿命を超える返済は、出口で詰む
もっと深刻なのは、寿命切れの物件をまだローン返済中のまま抱えてしまうケースです。
木造なら築30年超、RCでも築50年を超えた頃には、修繕は重く、流動性は低下し、売却先は限られてきます。それなのに、ローンはあと10年残っている・・そんな地獄、想像してみてください。
売れない、借り換えできない、でもローンは払わなければいけない。
ローンの残債>物件の価値
この瞬間、自己破産に限りなく近づきます。
これは市場の暴落でも、天災でもない。借り方を間違えた、それだけの話です。
「耐用年数」と「物件寿命」から考える
「どのくらいの期間で融資を組めばいいんですか?」
この問いに対して、「法定耐用年数でしょ」と即答する人は、残念ながら思考停止です。不動産投資における融資設計の根本を、完全に取り違えています。
耐用年数=減価償却の年数、融資期間とは違う
まず押さえておくべき基本中の基本。耐用年数とは、税法上の減価償却の目安にすぎません。
木造なら22年、RCなら47年。これはあくまで「どれくらいの年数で価値がゼロになることにするか」という帳簿上の話です。
物件が実際に使えるかどうかとは無関係。にもかかわらず、耐用年数をそのまま融資期間に当てはめる人が多い。
金融機関がこの年数を融資判断の参考値にするのは事実ですが、おおよその資産の劣化スピードを判断するための物差しでしかありません。
投資にとって意味があるのは、「帳簿上の減価」ではなく「現実にいくら残るか」です。
物件寿命とは現実的に運用できる期間のこと
では、融資期間の設定の軸にすべきは何か?
答えは物件寿命です。これは「いつまで建物が立っているか」ではなく、「いつまで賃貸物件として収益を上げられるか」を意味します。
建物が物理的に存在していても、賃貸需要がなければ意味はありません。外壁が剥がれ、雨漏りが発生し、誰も住みたがらなくなったら、それは寿命切れの不動産です。
建物の寿命とは、「貸せる限界」なんです。
立地、エリアの人口動態、修繕の可能性、リフォーム対応の柔軟性、これらすべてを加味して、「この物件はあと何年、まともに家賃を稼げるか?」という現実的なラインを見極める必要があります。
物件寿命内で完済できるか?がすべての起点になる
この前提を踏まえれば、融資期間の決め方は極めてシンプルです。
「回せる期間の中で、完済できるか?」
これだけです。逆にいえば、寿命を超えるローンは組んではいけません。なぜなら、「完済する前に資産価値がゼロになるリスク」を背負うことになるからです。
そして最悪なのは、出口が詰まること。寿命切れの物件は売れません。リファイナンスも通りません。つまり、ローンだけが残る未来が待っています。
これが、「耐用年数」ではなく「物件寿命」から融資期間を逆算すべき理由です。
融資期間はどう決めるか?3つの視点
「何年で借りるべきか?」ではありません。「何年運用できるのか?」から逆算する。この思考ができない人は、不動産投資で破綻します。
銀行の視点
「人×物件」の総合評価で年数が決まる
銀行が融資期間を決めるとき、見ているのは「築年数」と「担保評価」だけではありません。「誰に貸すか」と「何に貸すか」のセット、つまり属性×資産価値という掛け算で判断します。
たとえば、築30年の木造アパートに35年ローンを求めても、常識的に通るわけがない。物件の寿命を超える借入を銀行がOKする理由がないからです。
けれども、物件の担保力が高く、かつ所有者の属性(年収・資産背景・金融履歴)が鉄板であれば、「耐用年数+α」のローンが組めることもある。
逆に言えば、属性が微妙なのに築古ボロを買おうとしても、門前払いです。
属性だけで勝負しようとしてもダメ。物件だけが良くても通らない。「人と物件の整合性が取れているか」これが融資年数を左右する最大のポイントです。
物件の視点
キャッシュフローが続く年数から逆算せよ
あなたが買おうとしている物件は、あと何年、安定した家賃収入を生み出せるのか?この問いに答えられないなら、ローン年数も決まりません。
築30年の木造。見た目はキレイでも家賃は落ち始めている。修繕も重くなる。この物件で「30年回せる」と本気で思いますか?
仮に20年は運用できると判断したら、ローンは17年以内。なぜなら、最後の数年は出口を確保するために余裕を持たせておく必要があるから。
こんな感じでローン期間は「払えるかどうか」ではなく、「回せるかどうか」で決める。
家賃下落、修繕、空室率、これらを踏まえてキャッシュフローが黒字で維持できる期間がローン設計のベースになる。それを見ずに期間だけ引っ張っても、出口で地獄を見ます。
投資家の視点
売却戦略にローン年数を合わせろ
10年で売却するのに、20年ローンを組む。そんな矛盾した投資に、勝算はありません。
出口が10年なら、返済期間は10年未満。
逆に30年持ち続けるつもりなら、30年ローンでキャッシュフローを最大化しつつ、繰り上げ返済も視野に入れる。
ローン設計は、「今いくら払えるか」ではなく、自分の戦略に対していつまでに返せていればいいのかで決める。
要は、戦略とローン設計に一貫性があるか?です。
月々のキャッシュを重視するのか、利息総額を抑えるのか、10年で売るのか、30年保有するのか。その前提が曖昧なまま「とりあえず20年ローンで・・」なんて組んだら、痛い目を見ます。
投資家側から見た最適な融資期間とは、以下のようにして「月間キャッシュフローが黒字で、かつ無理のない範囲」で設計された期間です。
- 想定家賃収入(月)
- 運営費用・空室損(管理費・税金・修繕・広告等)を引く
- その残りで、ローン返済額(月)を上回る期間に設定する
たとえば・・
- 家賃収入:40万円/月
- 運営費+空室損:12万円/月
- 手残り:28万円/月
→ この範囲でローン返済額(元利)を設定するとして、金利と借入金額から逆算し、融資期間を調整する
最適解(結論)
融資期間は、「短いほど金利総額は少なくなるが、月間キャッシュフローは厳しくなる」「長ければ楽になるが、金利総額は増える」というトレードオフの関係です。
融資期間 | 月々の返済額 | 総返済額 | 利息総額 |
---|---|---|---|
10年 | 約18.8万円 | 約2,256万円 | 約256万円 |
15年 | 約13.3万円 | 約2,394万円 | 約394万円 |
20年 | 約10.6万円 | 約2,544万円 | 約544万円 |
25年 | 約8.9万円 | 約2,676万円 | 約676万円 |
30年 | 約7.9万円 | 約2,844万円 | 約844万円 |
よって、最適な算出方法とは
「自分の物件がどれくらいの期間なら無理なく回せるか?」をベースにして、金融機関が許してくれるギリギリの年数で交渉する
これが、リスクを抑えながら最大効率で回す融資期間です。
実務で使える融資年数の目安と交渉の型
「銀行の融資はブラックボックス」と言う人がいますが、それはただ準備不足なだけです。ルールはあるし、交渉の型もある。使いこなせていないのは、あなたの側。
木造・鉄骨・RCごとの融資期間の目安
以下は、実務ベースで金融機関が提示してくる融資年数の目安です。
構造 | 築年数 | 融資期間の目安 |
---|---|---|
木造 | 新築〜築20年 | 15〜25年 |
鉄骨(S造) | 築浅〜築25年 | 20〜30年 |
RC(鉄筋コンクリート) | 築浅〜築30年 | 25〜35年 |
ただし、これらは「表面上の目安」にすぎません。最終的な判断軸は、この物件は、あと何年回せるか?です。
物件の寿命と返済期間がズレていれば、出口で詰みます。
「築古×土地強い」なら再建築前提で交渉できる
たとえば、築30年超の木造物件。これだけ見れば敬遠されがちです。でも、接道あり・整形地・再建築可能という土地のスペックが揃っていれば話は別。
- 最悪は更地にして売れる
- 建物がゼロ評価でも、土地の評価は維持される
- ローンが残っても土地で回収できる
この論理を武器にすれば、耐用年数を超える期間でも通る可能性が出てきます。
築古=ダメ、ではありません。土地の価値が勝っていれば、むしろ融資は組みやすいんです。
銀行との交渉に必要な3点セット
銀行との融資面談でやってはいけないのはお願いモードです。銀行は、あなたの夢を応援する場所ではない。金を貸すのは、論理が通った人だけです。
交渉の武器は、次の3点に集約されます。
- キャッシュフロー試算
- →「この年数なら毎月●万円の手残りが出ます」
- 出口戦略
- →「10年後に売却、残債は●万円、想定売却価格は●万円です」
- 自己資金の提示
- →「初期投資として●万円を投入済みです」
これを資料で揃えて、淡々と提示すること。感情を挟むな、ロジックで押せ。それが、融資交渉の基本姿勢です。
「短く借りて早く返す」は正義か?
「短く借りて早く返す」は、聞こえは良いです。利息を抑え、早く借金から解放される。堅実な投資家の象徴のように語られます。
でも、不動産投資では、その正義が真逆に作用することも少なくありません。
金利を抑える戦略の落とし穴
「ローンは短く借りて早く返せばいい」
その発想、まさに節約家の思考です。
遊びで使った借金、つまり消費のために借りたお金(例:車・旅行・ブランド品のローンなど)は、早く返せば返すほど健全です。
これは返しても何も生まないから。負債=コストでしかないから、さっさと処理すべき。
でも、不動産投資は違う。
これは収益を生む資産を手に入れるための借金。つまり、事業資金です。だから「どう借りて、どう回すか」が利益を大きく左右します。
短く借りてガチガチに返済スケジュールを固めてしまえば、月々の返済が重すぎて、キャッシュフローが干上がる。
空室1ヶ月で赤字、修繕一発で破綻。そんな身動きの取れない運用に、何の価値があるのか?
返済を優先するあまり、「運営資金が足りなくて物件が回らない」なんて本末転倒もいいところです。
融資というのは、時間を買う戦略なんです。キャッシュに余裕を持たせて、そのぶん手元資金を守る。
それが運用の継続性を生む。
それが投資家の思考です。
月々の返済額と手残りのバランスを見ろ
不動産投資の最重要指標は何か?「金利」でも「借入総額」でもありません。
答えは一つ、月々いくら残るかです。
どんなに利回りが高くても、どんなに金利が安くても、手元に現金が残らなければ、それは稼いでないと同じ。
ローン設計は、キャッシュフロー起点で考えるべきです。「金利がもったいないから」なんて理由で返済を詰め込んだら、逆に全体が崩壊します。
返済額が収入の中でどう機能するのか?そこを見ずに期間を短くしても、それはただの自己満です。
「耐用年数+延長」まで借りて、CFから返していくのが王道
最も合理的で現実的な戦略はこれです。
「最大限の期間で借りて、収益が出たら繰り上げ返済で調整する」
なぜこれが強いのか? 理由は明確です。
- 長く借りれば、返済負担は軽くなる
- 軽くなれば、手元にキャッシュが残る
- 残ったキャッシュは、修繕・投資・次の融資交渉に使える
- 必要になれば、任意のタイミングで返済を早められる
要するに、選択肢が増える。これが投資の最大の武器です。それを自分の意志でコントロールする。
これが、不動産投資における鉄板の借入戦略であり、計算できる投資家だけが使える、本当の意味での最強の返し方です。
まとめ 融資期間は物件の寿命で決める
不動産投資における融資設計の本質は、何年借りられるかではありません。何年、その物件が持つのかです。
借りられる年数ではなく、運用できる年数を基準にして、そこから逆算する。
築古物件を30年ローンで引く?確かに月々は軽くなりますが、その物件、あと30年持ちますか?持たないなら、その融資は延命ではなく自爆装置です。
寿命を見誤ると、出口で破綻する
出口戦略は「売る」「持ち続ける」「リファイナンス」の3択です。このどれも、物件がまだ価値を持っていることが前提です。
築50年の木造アパートを持っていて、買い手がつきますか?再融資が通りますか?出口を考える頃には、物件はただの負債になっているかもしれません。
寿命10年の物件に20年ローンを組めば、破綻は最初からセットでついてきます。これが、不動産投資における出口戦略の失敗パターンです。
物件寿命と耐用年数を自分の言葉で語れ
まず、机に紙を1枚置いてこう書きましょう。
- 物件の築年数と構造
- 法定耐用年数(木造22年、鉄骨34年、RC47年)
- 自分が回す予定の年数(=寿命想定)
- 出口の取り方(何年目に、どう売るか or 保有継続か)
この4点を書き出せるようになれば、「とりあえず25年ローン」なんて選び方はしなくなります。
金融機関に振り回されるのではなく、戦略を持って借りる。その起点にあるのが、「この物件は、何年、生きられるのか?」という問いです。
融資期間は、借りる年数ではない。生かしきる年数です。